ROICがWACCを下回る見通しの中期経営計画
- 有沢製作所は、2020年10月29日に中期経営計画を発表しましたが、その内容は2025年3月期までにROIC6%以上を達成し、当面はROICがWACCを下回るというものでした。
- バリュエーション理論上、ROICがWACCを上回った状態とすることが企業価値の向上のために当然望まれます。逆に、ROICがWACCを下回った状態であれば、まず、投下資本(分母)の視点からROICを改善するために効率性の低い事業のテコ入れや撤退が求められます(下部のトピックをご参照ください。)。
- 他方、もし仮に、新規投資によって、投資前の投下資本が計上する利益よりもさらに多くの利益を確保できるのであれば、結果として、ROICにおけるリターン(分子)の増加率の方が、投下資本の増加率よりも大きくなるため、会社全体のROICは改善するでしょう。例えば、有沢製作所の中期経営計画においては、計画期間中に投下資本が約10%しか増加しない一方で、リターンは約80%も増加します。その結果、有沢製作所は、中期経営計画においてROICが3.6%から6.3%に改善するとしています。
- 弊社は、有沢製作所は「少ない投下資本によって多額の利益を確保できる」と中期経営計画に記載している以上、「どのセグメントのリターンが何を理由にどの程度改善する」など、中期経営計画の達成に向けた具体的な説明を行う必要があると考えます。
- 将来にわたる配当の価値を全て足し上げたものを株主価値と定義する「配当割引モデル」の方が一般的ですが、同じコンセプトを用い、企業価値算定にあたり、ROIC、WACC及び利益の増加率を用いる「バリュードライバー式」という考え方があります。配当だけにフォーカスした配当割引モデルに対し、バリュードライバー式は会社の利益から会社の維持に必要な投資(g/ROIC)を控除したキャッシュフローにフォーカスしています。
- 【配当割引モデル(上式)とバリュードライバー式(下式)】
- このバリュードライバー式に基づくと、下図のようにROICの水準が改善していけば企業価値は向上します。また、ROICがWACCより大きければ大きいほど、利益(分子)が増えたときの企業価値の向上幅も大きくなります(下図の灰色の矢印をご参照ください。)。
- 逆にROICの水準がWACCよりも低いのであれば、利益を増加させることよりも、投下資本を見直すこと(分母を減らすこと)によってROICを改善していくことが企業価値の向上に繋がります。
- (画像を大きく表示、出所:弊社作成)
(出所:2020年10月29日のプレスリリース及び修正後と記載の数値は2021年5月7日のプレスリリースより弊社作成)
トピック:企業価値算定に関するバリュエーション理論